アクリルにねじロックが付着すると割れる
ねじロック
ねじのゆるみ止め剤として使用されるねじロック。
複数のメーカーから似たものが出てますがLOCTITEが有名。
このLOCTITEですがアクリル部品を使う際には注意が必要です。
動くものをつくる時、アクリル部品を金属部品などに固定する際ねじロックを使ってしまいそうになりますが通常のLOCTITEがアクリルに付着すると割れてしまいます。
アクリルに付着しても大丈夫なねじロックはないのか?という点も含めて検証してみました。
実験
検証するねじロック
検証するのは以下の3製品。
①243(LOCTITE)
②425(LOCTITE)
③1401B(ThreeBond)
①243(LOCTITE)
よく使っているねじロック。
中強度タイプで固定した後も取り外し可能。
製品説明にもちゃんと「※金属ネジ専用です。プラスチック製などのネジには使用できません。」と記載されています。
このタイプのねじロックは嫌気性接着剤と呼ばれるもので、「空気の遮断+金属との接触」によって硬化が始まります。
硬化の仕組みは以下のサイトがわかりやすいです。
②425(LOCTITE)
LOCTITEから出ている樹脂ねじ用のねじロック。
243が嫌気性で空気が遮断された状態になってからでないと固まらないのに対し、こちらは瞬間接着剤にも用いられるシアノアクリレートを使用した接着剤で空気(湿気)に触れると固まりはじめます。
LOCTITE 425 - 樹脂ねじ用瞬間接着剤 - ヘンケルの接着剤
ただネックなのが価格。
20gで2000円以上します。
高い…
③1401B(ThreeBond)
酢酸ビニル樹脂を主成分としたゆるみ止め剤。
243と425は硬化後硬くなりますが、こちらはビニル樹脂なのでグニグニします。
カタログにプラスチックに使えると記載があり手持ちにあったので検証に追加。
固定強度は弱めですが、425と比べると安いのも魅力。
使用材料
M3用のバカ穴が空いた5mmのアクリルを使用。
(※余り部材なので形は気にしないでください)
3区分に分けて使います。
アクリル板の製法には押出しとキャストの2種類がありますがこのアクリルは押出板です。
キャストに比べ押出板の方が溶剤や薬液に弱くクラックが入りやすいという性質があります。
とはいえ安いので押出しを第一選択にしている方も多いのではないかと。
実験
ねじロックをべったりつけて穴に入れ、ナットで締めます。
はみ出たところは拭き取ります。
この状態で1日放置。
結果
①243
しっかり割れてます。
しかもクラックが入ったところに染み込んだねじロックは固まらないので時間が経つごとに徐々にクラックが広がっていきました。
②425
一見大丈夫そうに見えたのですが、3/4で小さなクラックが入ってしまいました。
良く見ないとわからないレベルの小さなクラックです。
調べてみると成分にあるシアノアクリレートでアクリルが割れるという情報あり。
本当に樹脂に使えるのか?と思っていたら以下のQ&Aを発見。
応力割れとは何ですか。何が原因で起きるのですか。
つまり、割れる前に硬化させてしまえば大丈夫!ということですかね。
それでもほんの少しですがクラックが入ってしまったので、そもそも押出しのアクリルが割れやすすぎるということかもしれません。
③1401B
1401Bもぱっと見大丈夫そうに見えたんですが全部の穴でよく見ると全箇所にほんの少し穴の縁にクラックが入ってますね。
425よりもしっかりわかるレベルです。
溶媒にメタノールが使われているのでこの影響かもしれません。
アクリルはアルコールでもクラックが入ります。
追加実験
ちょっと数が少なめだったので同じ形の別部材で425と1401Bを追加でやってみました。
やはり全体的に425、1401B共に微細なクラックのようなものが入りますね…
結論
243はやはり割れてしまいます。
樹脂ねじにも使えるとうたっているねじロックの結果としては425、1401B共に小さなクラックは入ってしまいました。
今回検証のために割とどっぷりと穴に接着剤をつけた状態でテストしているのでなるべくアクリルに付着しないよう気をつければ割れのリスクは少ないかもしれません。
あとは硬化中に変な力をかけないことも重要ですね。
とはいえ、そもそも押出しのアクリルはかなりクラックが入りやすいことがわかったので、がっちりねじロックで固定したい!というときはキャストにしておいた方が安全そうです。
(※キャストで本当に割れないかは未検証なので使用前にテストしてください!)
直線運動させる時に便利なOpenBuilds製品
作品制作で何かを直線的に動かしたいという要望が時々あるのでそんな時に使っているOpenBuildsの製品の記事を書いてみました。
OpenBuilds製品の特長
直線的に動かす電動機構(リニアアクチュエーター)はいろいろあるのですが、OpenBuildsではV-Slotと呼ばれるV字形状の溝がついているアルミフレームとV字の溝を転がるようにデザインされたローラー、ローラーを取り付けるプレートで構成されるリニアスライダーを販売しています。
アルミフレームのV字の溝をローラーが転がることでスライドしていきます。
プレートの上に動かしたい物を固定すれば長い距離を往復運動をさせることが可能です。
主なメリットは以下のような感じです。
- 工業向け製品に比べ安い
- ユニットになっているので簡単に完成品がつくれる
- 長い距離を動かすことができる
- アルミフレームをカットすれば自分で長さを調整できる
- 組み合わせが容易でありプロッターや3Dプリンターのような2軸、3軸駆動などもできる
特に価格面でのメリットは大きいです。
工業用の同じような物を買おうとすると結構なお値段がします。
本体の値段の割に送料が高めなのである程度の金額はしてしまうのですがそれでも工業向け製品に比べれば安く済みます。
また、ユニットで購入できる点も手間が省けて助かります。
ベアリングやねじ、スペーサーなどが1パッケージで届きます。
購入先はこちら
国内だとこちらのサイトでも購入することができますが種類は少なめ。
また、こちらに様々な製作事例が投稿されているので参考になります。
製品をみてみる
フレームのタイプ、駆動方法などによって様々なものがあるのですが今回は比較的使いやすそうな2種類をピックアップ。
V-Slot® Mini V Linear Actuator Bundle
20×40mmのアルミフレームを使用したベルト駆動のとてもコンパクトなタイプ。
C-Beam® XLarge Linear Actuator Bundle
アルミフレームの形が特殊で凹の形をしておりセンターにリードスクリューを配置し駆動させる仕組みになっています。
使用しているプレートも大きく、大きい物や重たい物も乗せやすいです。
サイズ感の違いはこんな感じ。
駆動方法の違い:ベルトとリードスクリュー
この2つの製品はモーターからの動力の伝え方に違いがあります。
V-Slot Mini V Linear Actuator Bundleはベルトを、C-Beam XLarge Linear Actuator Bundleはリードスクリューを使用しています。
ベルト
ベルト駆動はタイミングベルトと呼ばれるギザギザがついたベルトと、ベルトにモーターの動力を伝えるタイミングプーリーを使用します。
モーターが回転するとタイミングプーリも回転しベルトに動力を伝えプレートを動かす構造になっています。
リードスクリュー
リードスクリュー(台形ねじ)は動力伝達用の特殊な形状のねじのことを言います。
プレートの裏にねじ穴加工がされているブロックを固定することで、ねじが回転するとプレートが前後する仕組みです。
一般的なねじとナットで、ナットを軽く押さえながらねじを回すとナットが前後するのと同じ仕組みですね。
モーターの違い
V-Slot Mini V Linear Actuator BundleではNEMA 17、 C-Beam XLarge Linear Actuator BundleではNEMA 23という規格のステッピングモーターが使用されています。
NEMAとはNational Electrical Manufacturers Association(アメリカ電機工業)の略称でステッピングモーターのサイズが規格化されています。
NEMA17よりNEMA23の方がサイズが大きくよりトルクがでます。
ちなみに日本だとあまりNEMAで呼ばず「42mm角」のようにサイズで言うことが多い気がします。
仕様を確認する
OpenBuildsの製品ページには基本的な仕様も載っているので比較しながら見ていくと選びやすいです。
今回ピックアップした2製品の仕様はこちら。
V-Slot® Mini V Linear Actuator Bundle
Specifications:
- Belt Driven GT2-2M Timing Belts
- Travel distance:
- 500mm is ~15" (380mm)
- 1000mm is ~35" (880mm)
- 1500mm is ~54" (1380mm)
- Accuracy: 0.003" ~0.007" (0.10mm ~0.20mm)
- Accuracy Positioning: 0.260mm
- Max Force: 2.5lb (11N)
- Max Speed: 20000 mm/min
C-Beam® XLarge Linear Actuator Bundle
Specifications:
- Lead Screw Driven
- Travel distance:
- 250mm is ~4.5" (115mm)
- 500mm is ~14" (365mm)
- 1000mm is 35" (885mm)
- Accuracy: 0.001" ~0.003" (0.05mm ~0.10mm)
- Accuracy Positioning: 0.026mm
- Max Force: 26lb (115N)
- Max Speed: 8000 mm/min
精度等はこちらで測定された値のようです。
Travel distance
移動距離。
移動できる距離ですがベルトのプレートへの固定部分の長さ、可動するプレートの幅やモーター等を取り付けるプレートの種類によってアルミフレームの長さよりも実際に移動できる距離は短くなります。
例えばV-Slot Mini V Linear Actuator Bundleの移動距離を見てみるとアルミフレームの長さより120mm短くなっています。
Accuracy、Accuracy Positioning
Accuracy Positioningは位置決め精度。
例えば100mm、200mm、300mmの位置で止まれという指令を出しても実際は100.1mm、199.8mm、300.3mmというように場所によって誤差が出てきてしまいます。
位置決め精度とはその中で一番大きい誤差を示した値(この例だと0.3mm)のことです。
一方Accuracyなのですが何の精度を示しているのか正直よくわかりません。
位置決め精度と似たものとして毎回同じ場所に行く指令を出した時にどれだけの誤差が出るかという指標として繰り返し位置決め精度と呼ばれるものもあるのですが英語だとRepeatabilityなんですよね。
あと上の方でも紹介した計測を行っているリンクではRepeatabilityも記載されていますがその値とも異なります。
ベルトやリードスクリューの誤差か何かですかね。
位置決め精度と繰り返し位置決め精度の詳細についてはこちらが参考になります。
用語集 | アクチュエータ選定情報 | MISUMI-VONA【ミスミ】
ベルトとリードスクリューとの比較では位置決め、繰り返し位置決め精度共にリードスクリューの方が良いです。
とはいえ0.1~0.2mm単位の精度が要求される場面は少ないと思うので多くの方は気にしなくて良い気はします。
Max Force
最大荷重の項目。
こちらの実験装置を使用して計測した模様。
OpenBuilds Actuator Test Rig | OpenBuilds
プレートに取り付けた治具を横からシリンダーで押してどれだけの負荷に耐えられるかの測定なのでどれだけの重さの物を乗せられるかとは異なります。
以下のリンクで言うところの運動方向荷重の許容値と考えるのが良さそうです。
3-3. 負荷トルクの算出|eラーニング|セミナー・技術情報 |オリエンタルモーター株式会社
許容荷重もこちらのリンク先の計算式で計算できるはずなのですが摩擦係数μがわからないんですよね…
工業向けの製品ではスペック表に書かれているようなことが書かれていない点もOpenBuilds製品のネックではあります。
(このあたりはいずれテストしたいですね)
とはいえ許容荷重に関しては重心の位置などによっても異なってくるため最終的にはテストしてみる必要があります。
もう一つ注意点として一般的にステッピングモーターは速度が速くなるとトルクが落ちます。
そのため、速く動かすほど許容荷重は小さくなってしまうので注意です。
Max Speed
最大速度はベルトの方が速いです。
ベルト方式はモーターが1回転するとプーリーのピッチ円周分だけ移動します。
しかしリードスクリューはモーターが1回転してもねじの1ピッチ分(OpenBuildsのリードスクリューだと2mm)しか進むことができないためベルト駆動に比べ最大速度が遅くなってしまいます。
購入時選択項目
長さと色
購入画面でアルミフレームの長さを選択できます。
また、色はシルバーと黒(白アルマイトと黒アルマイト)から選べます。
黒の方がほんのちょっと値段がお高め。
モーターの有無
モーターの有無を選択。
自分で使いたいモーターがある場合以外は買っておいて良いと思います。
特にNEMA17のモーターは国内の安めのものを買うと軸の部分がDカットがされていなかったりするんですがOpenBuildsのものはしっかりDカットされています。
Dカットされていないとプーリをねじで固定した時に緩みやすくなるんですよね。
その他
ほかの種類の製品
リニアスライダーはこちらにもいろいろな種類があります。
もっと移動距離が長いものが欲しい場合
ベルトはスプールでも販売されているためより長いものをつくることができます。
購入できるV-Slotアルミフレームの最大は1500mmですが連結させることでより長いリニアスライダをつくることも可能です。
一方リードスクリューは1500mmまでしかありません。
長いものをつくりたい場合はベルト駆動にしましょう。
ちなみにベルトの製品名のところで2GTや3GTと書かれているのは規格の名前です。
タイミングベルトは規格が色々あり得意不得意が分かれているので興味がある方は他のベルトについても調べてみると良いかもしれません。
他に購入しておいた方が良いもの
リミットスイッチ
詳細は次の記事で書く予定ですが、ステッピングモーターはリミットスイッチと呼ばれるスイッチを使用して原点を決めるための位置出しを行います。
リニアスライダーのセットには含まれていないので購入しておいた方が良いです。
(CNC系のセットには含まれています)
ちなみに私は原点出し用と同時に反対側にもスイッチを付けてもし何らかの異常が発生して端まで移動してしまったことを検知して止められるようにするためにもう一個付けたりします。
あとリミットスイッチ用に3芯のケーブルも必要になります。
薄型レンチ
ローラーとV溝との締め付け具合を調節するために薄型の六角レンチが必要になります。
通常のレンチだと分厚くて入りません。
これじゃなくても良いのですがAmazonとかだと買い合わせ対象になっていたりするのでここで買っておいた方が楽かなと思います。
送料
アカウント登録し住所を入力後、トップページ右上のCart→CHECK OUTに進みShippingの項目で登録した住所を選択すると配送方法と送料を確認することができます。
アルミフレームのサイズが大きいほど送料が高いんですよね…
荷物が届いた後、Fedexから関税や立て替え手数料払ってね!という書類が届きました。
今回$463.31に対し4200円ほどでしたので参考までに。
配送にかかった時間
FedexだとInternational EconomyとInternational Priorityが選択できます。
どの程度日数が変わるのかわからないのですがそこまで高くなるわけではないので速そうなInternational Priorityで注文してみました。
注文日は2/2(火)の夜。
その後大雪の影響で発送が遅れますという連絡が来たのですが米国現地時間の2/3には出荷されていました。
ただ、1月に注文した時は年始で混んでいたからか出荷まで4日もかかったので時間には余裕を持ちましょう!
その後の配送状況はこちら
2/2の夜に注文して2/7にはもう届いてしまったので順調にいけば1週間かからずに到着するようです。
組み立て方
製品ページ下部の「Assembly」 から組み立て動画を見ることができます。
例えばこちら
英語ですが映像だけでも十分理解できると思います。
今回はここまで。
次は制御編を書く予定。